多肉植物の増やし方に「芽刺し」があります。茎が伸びてその先に葉が付く品種は芽刺しのカット位置が分かりやすいのですが、タワー系と呼ばれるクラッスラ属では「いったいどこで切ればいいの?」とちょっと悩んでしまう場合があります。
今回の実験室はタワー系クラッスラの刺し穂を作る場合について実際に試してみました。
タワー系クラッスラとは
ここでいう「タワー系クラッスラ」とは下の写真のような多肉植物です。対になった葉が上に向かって連なって成長していき、高く塔のように伸びていくタイプの多肉植物です。
カット芽刺しの目的と疑問点
タワー系クラッスラを育てていて、カット芽刺しをしようと思う目的は大きく2つあると思います。また、私が実際に芽刺しをしようとしたときに、「あれ?どうしたらいいのかな?」という疑問も何点かありました。
実際の試験内容に入る前に、これらについて少しふれておきたいと思います。
芽刺しを行う目的1:増やすため
タワー系クラッスラを芽刺しする目的の一つが「増やすため」です。気に入った多肉植物を増やしたいと思うのは共通した思いですよね!
増やすことを目的として芽刺しを行う場合、出来るだけ一度に多くの株を増やしたいと思うのも共通した思いではないでしょうか?
そうなるとここで疑問点がわいてきます。。。。。それは
表現を変えると、出来るだけ多くの刺し穂を作る場合は1つの刺し穂が小さくなります。そうなるとどの位まで小さくしても芽刺しが成功できるのか?という疑問が出てきました。もちろん芽刺しが成功しても成功率が激減してしまっては本末転倒になってしまいますので、成功率も高くて数も増やせるカット位置はどの位かな?という事です。
芽刺しを行う目的2:姿を整えるため
もう1つの目的に「姿を整えるため」というのがあります。これはタワー系クラッスラでは途中から脇芽が複数出てきたり、まっすぐ上に伸びずに曲がってしまったりして全体の姿が乱雑になってしまう事があります。そのため、数年に一度は鉢全体の姿を整えるために芽刺しで新しい株に一新させることも必要になってきます。
ここで出てくる2つめの疑問です。
上に載せた写真を見ていただくとわかるのですが、葉と葉の途中でカットした場合茎がとても短くなってしまいます。このままでは土に挿しても直ぐに倒れてしまいそうだし、といって倒した状態で発根を待つと株が上に曲がってしまうし・・・・
さてどうしようか?という疑問です。
実験とその結果
前述の2つの疑問(悩んでしまう点)を解決するために、実際にやってみた実験とその結果です。
最小単位でのカット芽刺しは成功するか!?
疑問点その1を解決するために行ったのは、「最小単位でのカット芽刺しの成功率」という試験です。タワー系クラッスラでの最小単位とは対になっている葉の1対、塔に見立てると1段1段ということですね!
最小単位芽刺し試験の方法
試用したのは愛星という品種です。春の植え替え時に写真のような1塊が出たのでそれを1対ごとに切り離して使いました。試験を開始したのが2020年3月21日でした。
写真のようにカットした苗を、本来下だった麺を下にして培養土(赤玉土(小粒))の上に並べて置きました。その様子が下の写真です。この時の容器は卵パックを再利用しています(;^_^A
この状態で時々霧吹きで加水しながら窓辺の室内で発根を待ちました。
実はこの試験と同時に、愛星を使って通常の芽刺しも行いました。<ここからメモ書き>5月17日芽刺しから57日目でこれらは植え替え可能。発根がしっかりできていた。
最小単位試験の結果
芽刺しを行ってから57日目の2020年5月17日、通常に行った芽刺しの刺し穂はしっかり発根していたため、最小単位芽刺しも発根を確認することにしました。その結果、使用した5つの刺し穂のうち、2つからは小さな芽が出ていましたが残りの3つには発根を確認することが出来ませんでした。
元々発根率が悪いのか、それとも芽刺しの方法に何らかの不具合があったのかハッキリとは分かりませんが、いくつか気になる点はありました。それは刺し穂の形状からカット面(軸の部分)が培養土に接地していなかった可能性が高いということです。そして時々霧吹きで加水はしていたのですが、卵パックを使用したためにそれ程培養土に水分を与えることが出来なかった点です。
そこで写真の状態のまま今度は種まきポットを使い、カット面が培養土に極力接地するようにして芽刺し処理を続けてみました。その様子が次の写真です。
種まきポットは下に穴が開いているので、底面給水で培養土に十分な水分を補給することが出来ます。
5月17日からおよそ1ヵ月後の6月14日になると、上部に新しい芽の形成がみられるようになりました。そこで培養土から抜いてみると十分な発根が見られたのです。
根はカットした茎の切り口付近から伸びていました。やはり培養土に接地していた方が早く発根するのかもしれません。
結果として、最小単位でのカット芽刺しでは全ての刺し穂で発根が見られました。これでこの大きさの刺し穂を使って一気に株数を増やすことが可能だという事がわかりました!
茎が短すぎて土に挿せないけど!?
タワー系クラッスラの仕立て直しなんかをする場合、バラバラに伸びた個体を好みの長さ(高さ)でカットして全体を揃えたりします。その時に悩んでしまうのがこの「茎が短い」という点なのです。培養土の上に横にしておけば発根するのでしょうが、時間がかかると茎が上に曲がって伸びてしまい、せっかく発根が見られても植えつけるとタワーが湾曲しているなんてことになります。
茎が短い場合の試験方法
茎が短くてうまく培養土に挿せない場合、考えられる方法は2つあります。1つは「下側の葉ごと培養土に植えてしまう」という方法と、2つめは「一番下の葉を取り除いて茎を長くする」という方法です。
試験で使った品種はクラッスラ属の南十字星と星の王子の2品種です。南十字星は2020年3月21日に試験を行い、星の王子は3月24日に行いました。
試験で使った南十字星は、1つの根元から双頭で成長している同じような2株を下の写真のようにカットして使用しました。
<補足>下の写真では上の段の中央の部分が双頭のまま残っていますが、実際に芽刺しを行った時は下段の株のように双頭部分もカットしました。
下の葉を除去する試験区は、最も下側になる葉をピンセットでつまんで茎から外しました(写真の下段の刺し穂)。
下の葉を外した刺し穂は茎を培養土に挿しました。外さない刺し穂は刺し穂が倒れないように下の葉を培養土に埋め込みました。
下の写真で上段左から3つが「下の葉を外したもの」で、下段の左から3つが「下の葉を培養土に埋め込んだもの」です。右側の3つの刺し穂は特に今回の試験とは関係ありません。
同様の試験を同じクラッスラ属の星の王子でもやってみました。南十字星と同じく、下の葉を外した刺し穂と、外さずに培養土に埋め込んだ刺し穂を作りました。さらに、星の王子では下の葉を外さないで、無い用土の上に横にして置いた試験区も作ってみました。
下の写真が星の王子の下の葉を外したものと外さないものの刺し穂です。
左の4つが外した刺し穂で、右の4つが外さない刺し穂です。
実際に培養土に挿したときの写真が下の写真です。
南十字星、星の王子ともに時々霧吹きで培養土を濡らしながら、窓辺の室内で発根するまで管理を行いました。
茎が短い場合の芽刺し試験結果
この試験の結果ですが、全ての刺し穂で発根を見ることが出来ました。以下品種ごとにもう少し詳しく結果を見ていきたいと思います。
下の写真は5月10日(芽刺し開始から50日目)の南十字星の様子です。若干水不足で葉にしわが寄っていますが、概ね全ての刺し穂は生きている感じです。
この刺し穂を培養土から抜いてみました。左下の「下の葉を外さずに培養土に埋め込んだ」刺し穂の発根はやや弱いものの、他の刺し穂の発根は同じような感じでした。
次に星の王子について見ていきます。下の写真は5月17日(芽刺し開始から54日目)の星の王子の様子です。南十字星と同様に若干水不足で葉にしわが寄っています(特に最下段の培養土に挿し穂を横にしただけの試験区)が、概ね全ての刺し穂は生きている感じです。
刺し穂を培養土から抜いてみた様子が下の写真です。下の葉の有無にかかわらず全ての刺し穂で発根が見られました。しかし、右側の「培養土の上に横にしていた」試験区での刺し穂は、他の区に比べて発根が弱いという結果となしました。やはりカット芽刺しでは培養土の上に横にするのではなく、培養土に埋め込んだ方が良いという事が分かりました。
もう少し発根の様子を詳しく見てみましょう。土がついていてチョット見にくいのですが(写真をクリックすると大きな画像が見られます)、下の葉を付けたままの刺し穂の場合(写真中央)、根は茎の先端から発根して伸びています。一方、下の葉を除去した刺し穂の方は茎の先端だけでなく、元葉の有った付近からも根が伸びていることが分かります。このことから下の葉を外して刺し穂にした方が、根の絶対量が多くなる可能性が高いことが分かりました!
芽刺し試験のまとめ
今回行った試験の結果から、次のような事が分かりました。
最小単位での試験より
最も小さい単位での芽刺し、つまり一対の葉だけで芽刺しを行った場合でも芽刺しの成功率は高いことが分かりました。今回の試験では100%の成功率です。
ただし、発根までに時間がかかる可能性が高いという事も分かりました。なるべく早く発根をさせるには、カットした茎が培養土に接地するようにした方が良いと思います。そのためには培養土の一部を少し盛り上げるような感じにして、その頂上に茎が当たるようにすれば良いと思います。
下葉の有無による試験より
タワー系クラッスラのタワーの高さについてはお好みの高さでカットすればよいのですが、カットした刺し穂で芽刺しを行う場合、最も下の葉は除去して茎を長くした状態で培養土に挿す方法が最も良いと思います。下葉がある状態でも発根はするのですが、下葉を外すと茎の先端の他にその付近からも根が出てくるので、結果的に根のボリュームが多くなると思います。
培養土に横に転がしておく方法は、発根は期待できますが培養土に挿す方法委比べて根のボリュームも少なく、刺し穂の受けるダメージも多い感じであるためあまりお勧めできません。
コメント